さくっと分かるニュースの見方

新聞などを読み比べてニュースのポイントを考えます

「コロナ後」の考察~何が変わるのか

 新型コロナウイルスの感染拡大は、日本に大きな課題を突き付けた。多岐にわたることだが、このうち都市政策と働き方へのインパクトに注目したい。どのような変化がありうるだろうか。

 日本総合研究所主席研究員の藻谷浩介氏は、日経新聞(7月11日)のブックガイド「今を読み解く」で考察している。ずばり、日本は「変わろうとしない社会」である、と。「コロナ禍でも喫煙者は煙を吸い続けたし、接待型飲食業に通う人は通い続けた」。そして、テレワークだって、結局は面倒だからやめよう、という会社が多いはずなのだ。

 その中で、大都市の過密状態に継承を鳴らしている。国内の死者の3人に1人は都民だという。過密の中で暮らすこと自体に高いリスクがあることが、改めて明白になっているというのだ。藻谷氏の表現はユニークだ。東京が普通なのではなく過密。そして、地方は過疎ではなく「適疎」。そういう認識に国民が到達する日は来るのだろうか…。

 2014年に発刊され話題となった「地方消滅」(増田寛也編著)を思い出す。本書の指摘で重要なのは単に少子化で地方が消滅するということではなく、東京一極集中が日本の発展を妨げるという点にある。増田氏は言う。本来、田舎で子育てすべき人たちを吸い寄せて地方を消滅させるだけでなく、集まった人たちに子どもを産ませず、結果的に国全体の人口をひたすら減少させていく。この「ブラックホール」こそが問題なのだ、と。

 密の解消、テレワーク。コロナで見えたこの二つのキーワードによって、少しは突破口が、答えが、見えたのではないか。あとは国が本腰を入れて取り組むかどうかだろう。

 再び藻谷氏に戻れば、「希望は漸進の中にある」という。つまり「日本が変わる」のではなく「自分が変わる」ことが重要なのだと。ほんの1~2パーセントの変化の先に、いつのまにか日本が「変わっている」瞬間があるのだと。

 もう一つ、働き方の変化はどうだろうか。東京一極集中の是正ともからむ大問題がある。日本型雇用システム=「年功序列」「終身雇用」である。この本丸がどうなるのか。ここはまた別の機会に考察したい。

 

 7月5日投開票の東京都知事選は現職の小池百合子氏の圧勝におわった。さて、問題はこれが国政選挙にどうかかわってくるか、である。

 日経(7月7日付)は、新型コロナウイルス感染拡大という状況の中で「安定を求める声を浮き彫りにした」と指摘。「選挙戦は現職に有利に働く」との受け止めが自民党内に広がっているという。小池氏はコロナ対応を優先し、街頭演説に一度も立たなかった。それでも、366万票という圧勝で他の候補を圧倒した。

 安倍政権の内閣支持率は伸び悩むが、共闘でもたつく野党との比較で、自民党がまだ優位を保てているといえる。そうすると、解散総選挙である。コロナの「第2波」の可能性や経済の悪影響など、政権浮揚を見込める要素は当面少ないことから、自民党内は、野党の選挙準備が整う前に解散に踏み切るべきだとの意見に傾きやすい、と日経はまとめている。

 野党は都知事選で候補者を一本化できず、小池氏の圧勝を許した。これには、野党第一党立憲民主党が独自候補を擁立できずに指導力を示せなかったことが大きい、と指摘するのは、毎日(7月7日)である。支援した宇都宮健児氏は84万票を獲得したものの、4倍以上の大差で敗北。国民民主党内には、立憲主導の共闘に懐疑的な意見も出始めているという。

 朝日(7月7日)は、「風吹かぬ山本氏 浸透力不発」として、れいわ新選組山本太郎代表に注目している。昨夏の参院選でれいわに2議席をもたらしたものの、今回は立憲民主などと対立する構図となり、65万票で3番手どまり。街頭で徹底して対話を重ねて有権者の共感を誘う得意の手法ができなったという。この山本氏の失速が、野党再編にどう影響するかに注目だ。朝日記事では、山本氏の発言力は低下する、とも、いまこそ連携を呼びかけるべきだ、ともいう立憲関係者の声を取り上げている。山本氏が共闘条件に掲げるのは「消費税5パーセント」。ここを立憲あたりがどう受け止めるのだろうか。

 何度も見てきた「ばらばらで立ち向かう野党と、なんとなく勝利する安倍与党」の構図が、今回も繰り返されるのだろうか。秋まで時間はない。

リニア工事延期のなぜ

 品川―名古屋間を40分で結ぶという超高速のリニア中央新幹線の2027年開業が、延期となった。JR東海の金子慎社長と静岡県川勝平太知事の会談が、平行線のままだったからだ。大きく取り上げられたニュースであるが、いまいち何が問題なのかわかりづらい。新聞各紙に目を通してまとめてみた。

 まず、リニアとは。読売新聞(6月27日)によれば、最高時速500キロで、品川―名古屋間は東海道新幹線より1時間も短縮される。東京―大阪までは、なんと67分で結ぶという。強力な磁力で車両を10センチ程度浮かせて走る。工事は15年に着手した。

 日経新聞(同日)によれば、リニアは東海道新幹線が大規模災害に遭った場合のバイパスの役割を持つ。また、開業から55年経過した新幹線の大規模改修が必要な時、新幹線の輸送力の減少を補う役割も担う。総工費は9兆円。大阪までの開業は37年を見込んでいた。

 静岡県が問題視しているのは、県中部を流れる大井川の環境への悪影響だ。ここらへんは、朝日新聞(同日)が詳しい。静岡県でのリニア工事とは、南アルプスを貫くトンネル掘削だ。工区は8・9キロで、全体からみればわずか。ところが、この工事現場が、大井川の水源と重なることが問題。工事でわき出す水が、トンネルを通じ県外に流出するのではとの不安があるというのだ。

 大井川の水は、下流域で飲料水や農業用水などに広く使われ、県人口の約6分の1にあたる62万人の暮らしに関わる。会談で、川勝知事が金子社長に「大井川の水でつくられたお茶です」とお茶を勧めたのは、そういう背景からくる演出だ。もともと大井川はダム開発が盛んな川。その影響で水が減ったことから、1980年代には、住民が「水返せ運動」を展開した歴史がある。朝日記事は「水に敏感にならざるをえない県民感情も川勝知事の姿勢を支える」と指摘する。もともと、リニアは静岡県にとって何のメリットもない。水問題でみれば悪影響しかないプロジェクトなのだ。

 さて、工事には河川法にもとづき知事の同意が必要という(朝日)。今後の展開はどうなるのか。こうなってくると、国の出番である。国土交通省は「有識者会議による環境影響の検証などを通じて局面打開を急ぎたい考え」(日経)だという。ここで精緻な見積もりを提示し、川勝知事に納得してもらう、というシナリオだが、それにしても、時間がかかることに間違いはない。そもそも、新型コロナウイルスを経験したポストコロナの時代には、リニアは必要な技術なのか…という疑問もでてきて当然だろう。日本の大動脈にかかわる大プロジェクトが、大きな岐路に直面している。

 

 

 

衆院の秋解散はあるのか?

このところ急に、「衆院解散があるかも」な報道が出始めている。これはどういうことなのだろうか。

 朝日新聞(6月23日朝刊)では、「遠くない時期の衆院解散の可能性を示唆する発言がにわかに目立ち始めた」として、与党幹部の発言を紹介している。また、自民党麻生派は、7月16日に政治資金パーティーを開催。これが「秋の解散をにらんだ動きでは」との憶測を呼んでいるようだ。

 日経は22日、24日(朝刊)と上下で「ポスト安倍始まる」との連載を掲載した。新型コロナウイルスの感染拡大により、内閣支持率が低下し、経済も失速した。そのなかで、ポスト安倍の有力候補であった岸田文雄氏への支持は広がっていないようで、「禅譲」は難しくなっている。そうなると、混戦が予想される。

 安倍政権はよくもわるくも、民主党政権の失敗を大きな教訓として、反ポピュリズムで安定していた。選挙も強かった。それが、コロナの混乱とポスト安倍の混戦のなかで、「予想外の勢力が伸長する可能性もある」という。世論調査の一番手は石破茂氏であるが、党内の支持は弱い。首相の出身派閥・細田派では下村博文氏、稲田朋美氏、竹下派茂木敏充氏などと混戦模様だ。「リーダー不在のままでは日本の未来も見えなくなる」と連載は指摘する。

 本当に、予想のできない世の中になっている。政治も経済も、一寸先は闇かもしれない。アメリカ大統領選の動向も気になるところ。日本も世界も、未来が見通せない。

変わらぬ日本への怒り

日経新聞といえば、政治的な主張は中立のようなイメージがあったが、新型コロナウイルスへの政府対応をめぐっては批判的なトーンが目立つ。批判を超えて「怒り」すら感じられる。何への? 変わらぬ日本型組織そのものへの、だ。

 6月9日に始まった5回連載「検証コロナ 危うい統治」を面白く読んだ。まず初回、一向に進まないPCR検査などを例に挙げ、日本の官僚機構の機能不全を指摘。「共通するのは失敗を認めれば自らに責任が及びかねないという組織としての強烈な防衛本能だ、前例や既存のルールにしがみつき、目の前の現実に対処しない」と厳しい。「20世紀型の官僚機構を引きずったままでは日本は世界から置き去りにされる」とまで言い切っている。

 2回目はデジタル化がテーマ。オンライン診療をめぐる壁に焦点を当てた。ある開業医の証言が印象的だ。「『都市部の医師やデジタルに詳しい若い医師に患者が流れる』との反対が地方に多い」。これは教育現場でも同様だ。しかし、デジタルに距離を置き続けるならば、結局損をするのは国民である。

 3回目は「つぎはぎ行政」。これも意外と興味深かった。雇用調整助成金の申請代行をする社会保険労務士を例に、制度の機能不全を描く。「労働、税、法務。多くの分野に専門家を挟み。、プロでなければ使えないシステムをかんじがらめで作る日本。それがデジタル化を遅らせ、改革を阻む」。そう、日本の官僚機構の弊害の一つは、ほっておくとどんどん仕事や制度を増やしてしまう、という点にある。予算も人も手間もかかる一方。だから増税しかなくなる。はっきりいって面倒な組織なのだ。

 4回目は「民」の役割。韓国など給付金配布がスピーディな国々と比べて日本は何がダメなのか。日本は「政策に民の知恵を生かさない国」なのだ。一方で、持続化給付金の例を挙げるまでもなく、民間への不透明な業務委託がある。この国はいったい、何をやっているのか。その出口は、最終回「官邸主導」である。官僚機構の行き詰まりを打破するには、政治主導、官邸主導しかない。しかしこれはまだ未完のプロジェクトである。連載は「官邸主導で臨むべき日本の宿題は改めて浮かび上がっている」と結んでいる。

 コロナを乗り越え、どのような政治体制が主流になっていくのか。世界の潮流に注目だ。確実なのは、その中で日本は取り残される、ということだ。

税金がいつのまにか消えていく?

 新型コロナウイルスの感染拡大でさまざまな業種が苦境に立たされているが、そんな中で、ろくに苦労せずにがっぽり血税をかすめとる連中がいるらしい。

 話題になっている持続化給付金の「民間委託」である。日経が6月6日付で問題点を整理している。まず第1は、プロセス。なぜ政府は、この「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」なる団体に769億円で委託したのか。入札にはもう一社が応じているうよだが、「総合評価」で決まったとして詳細は明らかになっていない。これでは発注先が適正かを検証できないし、電通に仕事を回すための「トンネル団体」との批判が出てくるのも当然だ。

 第2は、委託コストの膨張だ。この協議会が電通に委託し、電通がさらに子会社に委託するというのが今回の構図。このような「中抜き」がいくつも発生すれば、無駄なコストがかさむわけだ。電通は100億円を受け取るそうだが「詳細な積算根拠は示していない」という。第3は、透明性だ。この協議会は決算公告を出していない団体で、ようは実態もよくわからない。こうして、国民の税金がいつのまにか、よくわからない輩にかすめとられていく。たしか、東日本大震災の復興費もそうだった記憶がある。

 朝日新聞6月6日付によれば、同じような構図はキャッシュレス決済のポイント還元事業でもあるという。「一般社団法人キャッシュレス推進協議会」が、業務を電通など再委託していた、と。ここでも電通か!なんとも恐ろしい会社ではないか。こうしてかすめとられたカネは、一体どこへ消えていくのか?何に使われるのか?官僚か、与党へ還流するのか?ここらへんの報道を、ジャーナリズムに期待したいところだ。いずれにせよ、この民間委託問題は、日本社会のダークサイドが、少しだけ明るみになった事案といえよう。

 

検察高官とマージャンはありか?なしか?

 週刊文春の久々の文春砲(5月28日号)によって明るみに出たのが、黒川弘務・東京高検検事長(当時)への新聞記者による接待賭けマージャンだ。いろいろな視点がありうると思うが、ここでは記者と情報源との距離について考えてみたい。

 同誌では、産経新聞記者の都内のマンションに黒川氏がやってきて、ほかの記者たちとともに”三密”な空間で、未明までマージャンに興じた。そして、記者が用意したハイヤーで帰宅した―。そんな一部始終が描かれている。

 これを受けて産経新聞は「賭けマージャンは許されることではない(中略)厳正に処分してまいります」。同席の記者がいたという朝日新聞も「適切に対応します」などとコメントした。

 毎日新聞5月22日付では、ジャーナリストの大谷昭宏氏がコメントしている。曰く「緊張感のかけらもなく、ズブズブでいびつな関係を築いただけ」と厳しいが、「この件をもって記者の牙を抜いてしまうようなことがあってはいけない」とも言う。「個々の取材手法については、法律違反は許されないが、社会通念に照らして異常でなければ容認されるべきだ」と。それが「読者にディープな情報」を届けることに資するからだ。一方で、慶応大教授の鈴木秀美氏は、接待マージャンとなれば間接的に金銭を渡して情報を得るようなものであり「守るべき一線を越えてしまっていたのではないか」と指摘。「記者たちは、報道倫理について改めて考えを巡らせてほしい」と結ぶ。

  「ディープな情報」を扱ったことで有名な映画といえば「大統領の陰謀」。そこでは、主人公の記者が地下駐車場で取材源=ディープスロートと会い、ヒントをもらうシーンが描かれていた。こうして権力者(大統領)陰謀の内幕を少しずつ暴いていくわけだが、そもそも、その取材源とはどうやって関係を構築したのか?は明らかになっていなかった。素人目からすると、黒川氏のマージャン好きを足掛かりに、近づいていくというのも、一例としてはありなのか?と思ってしまうところではある。しかし現代のコンプライアンス的には「アウト」なようだ。