さくっと分かるニュースの見方

新聞などを読み比べてニュースのポイントを考えます

リニア工事延期のなぜ

 品川―名古屋間を40分で結ぶという超高速のリニア中央新幹線の2027年開業が、延期となった。JR東海の金子慎社長と静岡県川勝平太知事の会談が、平行線のままだったからだ。大きく取り上げられたニュースであるが、いまいち何が問題なのかわかりづらい。新聞各紙に目を通してまとめてみた。

 まず、リニアとは。読売新聞(6月27日)によれば、最高時速500キロで、品川―名古屋間は東海道新幹線より1時間も短縮される。東京―大阪までは、なんと67分で結ぶという。強力な磁力で車両を10センチ程度浮かせて走る。工事は15年に着手した。

 日経新聞(同日)によれば、リニアは東海道新幹線が大規模災害に遭った場合のバイパスの役割を持つ。また、開業から55年経過した新幹線の大規模改修が必要な時、新幹線の輸送力の減少を補う役割も担う。総工費は9兆円。大阪までの開業は37年を見込んでいた。

 静岡県が問題視しているのは、県中部を流れる大井川の環境への悪影響だ。ここらへんは、朝日新聞(同日)が詳しい。静岡県でのリニア工事とは、南アルプスを貫くトンネル掘削だ。工区は8・9キロで、全体からみればわずか。ところが、この工事現場が、大井川の水源と重なることが問題。工事でわき出す水が、トンネルを通じ県外に流出するのではとの不安があるというのだ。

 大井川の水は、下流域で飲料水や農業用水などに広く使われ、県人口の約6分の1にあたる62万人の暮らしに関わる。会談で、川勝知事が金子社長に「大井川の水でつくられたお茶です」とお茶を勧めたのは、そういう背景からくる演出だ。もともと大井川はダム開発が盛んな川。その影響で水が減ったことから、1980年代には、住民が「水返せ運動」を展開した歴史がある。朝日記事は「水に敏感にならざるをえない県民感情も川勝知事の姿勢を支える」と指摘する。もともと、リニアは静岡県にとって何のメリットもない。水問題でみれば悪影響しかないプロジェクトなのだ。

 さて、工事には河川法にもとづき知事の同意が必要という(朝日)。今後の展開はどうなるのか。こうなってくると、国の出番である。国土交通省は「有識者会議による環境影響の検証などを通じて局面打開を急ぎたい考え」(日経)だという。ここで精緻な見積もりを提示し、川勝知事に納得してもらう、というシナリオだが、それにしても、時間がかかることに間違いはない。そもそも、新型コロナウイルスを経験したポストコロナの時代には、リニアは必要な技術なのか…という疑問もでてきて当然だろう。日本の大動脈にかかわる大プロジェクトが、大きな岐路に直面している。