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アメリカ大統領選はなんだったのか

 アメリカ大統領選は、民主党候補のバイデン氏の勝利が確実となった。新聞各紙で論考が出ているのでおさえておこう。

 日経の経済教室(11月26日朝刊)での、会田弘継氏の考察を見てみよう。「米国で起きている政治混乱と再編の台風の目」と指摘するのが、「高卒以下の白人と若者層」であるという。一方は学歴による所得格差、他方が世代間格差でいずれも「負の側」に置かれ、政治に怒りをぶつけ、変革を促す。こうした現象は、一般的には「ポピュリズム」といわれるが、朝日新聞の論壇時評(11月26日朝刊)における津田大介氏の論評を孫引きすると、「非エリートは何らかの”拠りどころ”を探さねばならない。1世紀前ならばナショナリズム、今であれば「倫理的思考」「科学的な思考」「ポリティカル・コレクトネス」の破壊がそれに当たる」ということになる。

 このベクトルは、共和党の「トランプ化」を進めることになる。具体的には、レーガン主義の否定。小さな政府&自由貿易&国際主義などなどの否定である。一方で、若者層は左派、サンダース氏の社会主義的政策に期待を向ける。若者の困窮化が背景にある。つまりバイデン氏は、党内左派と、根強いトランプ主義との板挟みになる。

 翌日の日経経済教室(11月27日朝刊)では、渡辺靖氏が、両党内で主流派への不信が増大し、左派右派のポピュリズムが先鋭化している点に懸念を示している。

 いずれにせよ、アメリカ政治の基本である「抑制と均衡」のシステムが作動したとみなすのが、読売新聞(11月22日朝刊)での田中明彦氏である。  

 米国の民主主義とは、単純な多数決ですべてを決めれば良いというシステムではない。多数を握った者が少数者の自由を奪うことは何としても防がねばならないという古典的な自由主義の考えが、この制度の基盤にある。政府自体が政府自身を抑制せざるをえないようにしなければならない(ジェームズ・マディソンの「抑制と均衡」の理論)というのだ。

 トランプの登場でアメリカが権威主義体制になったわけではない。そして、今回の政権移行によってむしろアメリカの「民主政治の強靭性」を示したという。もちろん、抑制と均衡はバイデン氏にも働く。トランプ現象が示した少数者の異議申し立てを無視して政権運営はできない。つまり、アメリカ政治は、有力な少数者の存在を強烈に印象付けることに成功し、他方で、トランプ氏を退場させることにも成功した。この二つの「成功」が、長期的にアメリカ政治の健全化に貢献する、とまとめる。こうしてアメリカはまた、進化しつづけるのだ。