さくっと分かるニュースの見方

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「強い官邸」とは?~日本の政治改革をおさらい

 日本の政治のカタチは、1990年代の政治改革をへて、この20年間でずいぶんと変わってきました。その成果はどうだったのでしょう。安倍1強の弊害、後手後手のコロナ対策…。現状をみるに、あまり「いい改革だった」とはいえないのかもしれませんね。
 朝日新聞に分かりやすい記者解説がありました(3月1日朝刊 「強すぎる官邸」の弊害)。90年代の政治改革は、官邸のリーダーシップ強化を目指した。逆にいうと、日本の政治はこれまで、強い派閥やら官僚やらで統率力が発揮できないとされていた、ということですね。ではどういう改革のステップだったか。
 1  94年の小選挙区導入
 政権交代可能な二大政党制を目指し、衆院選政権選択選挙の色が強まった。小泉純一郎首相のように、党首が舌代な力を持つようになり、派閥の力は衰え、官邸が強くなる契機になった。
 2  97年の橋本行革
 マクロ経済政策や予算編成の基本方針などで総合戦略を練る経済財政諮問会議を設置し、首相補佐官を増員した。
 3  2009年政権交代
 民主党政権は、事務次官会議を廃止するなど、官僚排除を進めた。
 4  14年内閣人事局
 600人以上の省庁幹部人事を握る人事局ができたことで、官邸による官僚の影響力は決定的になった。

 こういうステップを踏んで、90年代政治改革が目指した「強い官邸」が実現したわけです。しかし、改革のもう一つの目玉である「政権交代」が機能していないのが、実は大きな問題なのではないか、ということですね。ずばり、野党がばらばらで弱すぎるんです。
 さて、過去の政権交代の原動力は自民党分裂でした。じゃあ、今後はどうなるのでしょう。このまま自民党長期政権が、また続くのでしょうか? 
 以上、新聞記事をもとに日本政治を振り返ってみました。こういう「おさらい記事」は、ためになりますね。

アメリカ大統領選はなんだったのか

 アメリカ大統領選は、民主党候補のバイデン氏の勝利が確実となった。新聞各紙で論考が出ているのでおさえておこう。

 日経の経済教室(11月26日朝刊)での、会田弘継氏の考察を見てみよう。「米国で起きている政治混乱と再編の台風の目」と指摘するのが、「高卒以下の白人と若者層」であるという。一方は学歴による所得格差、他方が世代間格差でいずれも「負の側」に置かれ、政治に怒りをぶつけ、変革を促す。こうした現象は、一般的には「ポピュリズム」といわれるが、朝日新聞の論壇時評(11月26日朝刊)における津田大介氏の論評を孫引きすると、「非エリートは何らかの”拠りどころ”を探さねばならない。1世紀前ならばナショナリズム、今であれば「倫理的思考」「科学的な思考」「ポリティカル・コレクトネス」の破壊がそれに当たる」ということになる。

 このベクトルは、共和党の「トランプ化」を進めることになる。具体的には、レーガン主義の否定。小さな政府&自由貿易&国際主義などなどの否定である。一方で、若者層は左派、サンダース氏の社会主義的政策に期待を向ける。若者の困窮化が背景にある。つまりバイデン氏は、党内左派と、根強いトランプ主義との板挟みになる。

 翌日の日経経済教室(11月27日朝刊)では、渡辺靖氏が、両党内で主流派への不信が増大し、左派右派のポピュリズムが先鋭化している点に懸念を示している。

 いずれにせよ、アメリカ政治の基本である「抑制と均衡」のシステムが作動したとみなすのが、読売新聞(11月22日朝刊)での田中明彦氏である。  

 米国の民主主義とは、単純な多数決ですべてを決めれば良いというシステムではない。多数を握った者が少数者の自由を奪うことは何としても防がねばならないという古典的な自由主義の考えが、この制度の基盤にある。政府自体が政府自身を抑制せざるをえないようにしなければならない(ジェームズ・マディソンの「抑制と均衡」の理論)というのだ。

 トランプの登場でアメリカが権威主義体制になったわけではない。そして、今回の政権移行によってむしろアメリカの「民主政治の強靭性」を示したという。もちろん、抑制と均衡はバイデン氏にも働く。トランプ現象が示した少数者の異議申し立てを無視して政権運営はできない。つまり、アメリカ政治は、有力な少数者の存在を強烈に印象付けることに成功し、他方で、トランプ氏を退場させることにも成功した。この二つの「成功」が、長期的にアメリカ政治の健全化に貢献する、とまとめる。こうしてアメリカはまた、進化しつづけるのだ。

新常態への対応

 日経11月19日朝刊によると、日本企業の4月~9月期決算は、「新常態」への適応力によって明暗が分かれたという。

 例えば、味の素は、巣ごもりで家庭での調理機会が増え、和風だしの素「ほんだし」やコンソメなどの調味料は事業利益が2割増。冷凍食品も伸びた。即席麺大手の日清食品ホールディングスなどはカップ麺のほか袋麺が好調だ。小売業では食品スーパーや郊外型の家電量販店の業績が上向いた。バローやノジマといったあたり。意外なところでは「三国志」のゲームで有名なコーエーテクモ

 しかし、航空や旅行、化粧品や百官店などの大手は大変厳しい状況にある。ビール最大手のアサヒビールも同様だ。

 日経11月17日の中村直文編集委員のコラムをみよう。ずばりその理由は最強のビール「スーパードライ」を持つが故の第ブランド病だという。ビール市場は縮小しているのに、「見たい現実」だけを見てきた。一本足打法ゆえに、他のブランドやカテゴリーの育成を妨げる見えない壁があった可能性がある。

 そもそも日本企業は継続性を重視する。成功すればするほど戦略の修正が難しくなる。とあるグローバルアパレルメーカーのトップは「成功は失敗のもと」と言ったが、正しい。どんな斬新なビジネスモデルも陳腐化し、トップの油断が大きなリスクになって戻ってくる。成功体験に甘んじてはいけない。

 しかし・・・。分かっていても、船は沈む。これこそが、アメリカに敗れた日本という国のかたちなのだ。

日本の野党はなぜ勝てないのか

 日本政治の特徴として、野党が弱い、ということが挙げられる。戦後からずっと、ごく一部の期間を除いて、野党は主張するだけで大きな塊にはならなかった。そして、分裂を繰り返す。この野党の弱さが、安倍長期政権を支えた面もある。なぜだろう?

 野党はひとまず、新たな「立憲民主党」として再結集した。だが、その内部は一枚岩ではなさそうだ。読売新聞の連載(10月5日~7日朝刊)に詳しい。野党のネックは共産党だろう。菅首相が誕生した9月16日。共産党は、首相指名で立民の枝野幸男氏に投じた。共産党の他党への投票は22年ぶりという。枝野氏は衆院で134票を集め、野党共闘の機運が高まったかにみえる。だが、「思わぬ副作用を生んでいる」という。

 共産は「大きな貸し」をつくったとするが、もともとは自衛隊廃止など「現実から乖離した主張」を掲げる。そうした政党と一体化したとみられかねないのは、立民側には大きなネックだ。共産の組織票は魅力的とはいえ、これは「禁断の果実」なのだ。例えば立民を支援する連合の会長は立共接近に不快感を示したという。自民と公明が長くひとまとまりになって行動してきたのに対し、野党はまとまろうとすると、分裂しようとするベクトルが働く。

 立民内部も一枚岩ではない。サンクチュアリ小沢グループなどさまざまなグループがある。自民党の派閥とは異なり、緩やかな集合体で、一人で複数を掛け持ちすることもあるという。これが乱立傾向で、不協和音も目立ち始めているという。

 そうなると、すぐに「第3極」を掲げて離脱する動きが出てくるのだが、これは「これまで幾度となく与党に取り込まれ、姿を消していった」道だ。独自色を発揮できなければ、たちまち自壊の道をたどることになる。

 与党は即座の解散総選挙を見送った。これは裏を返せば、「いつでも勝てる」という自信のあらわれではないか。強い野党はいつできるのか。できないのか。先の大戦で日本が敗れたのと通じる日本論、日本人論が、ここにあるような気がしてならない。

変わるビール業界~10月酒税改正

 10月1日からビール系飲料の税額が変わり、商戦が熱を帯びているという。第3のビールは値上がり、通常のビールは値下がりするそうだ。これを機に、業界各社が戦略を練っているという。

 まず、第3のビールとは何か。読売新聞(9月23日朝刊)によると、大豆など麦芽以外の原料を使うか、麦芽使用率50%未満の発泡酒蒸留酒を混ぜたビール系飲料だという。中でも注目は、2018年3月にキリンビールが出した「本麒麟」。コクや味わいにこだわって大ヒットとなり、勢いを増した。

 さて、この第3のビールの税額(350ミリリットルあたり)は28円。これが10月1日から37・8円となり、大幅な値上げとなる。一方で、ビールは77円から70円の値下がりに。さらに、26年には双方とも54・25円にそろえるという。なぜこうするのか。財務省は、類似商品の税額の違いをなくすことで税の公平性が高まるほか、ビールの国際競争力の向上に役立つとみている。税収には影響しないという。つまりこういうことだ。日本の税額は世界でも高い方だ。ビールは米国の7倍、ドイツの14倍だそうだ。そこでメーカーは、ビールの基準から外れるビール系飲料を開発することで税逃れをしてきた。そして国は税逃れを封じ込めようとし、法廷闘争にもなった。でもこれは日本だけのこと。こういうのを「ガラパゴス化」というのだ。その力を外へ向けようよ、というわけだ。

 これを「ビール復権」とみる動きもある。例えばキリンは、主力の一番搾りに「糖質ゼロ」を投入する。そのキリンに注目したのが日経新聞の連載(9月24日~26日)である。

 キリンはアサヒビールの攻勢の前に長く負け戦が続いていたが、15年1月に就任した布施孝社長が「負け犬根性」の払しょくに注力。マーケティングを徹底した。25まで膨れたブランドを7つに絞り重点投資した。顧客本位の視点から満足できる第3のビール本麒麟」のヒットにつなげた。そして酒税改正は「一気にポジションを上げるチャンスだ」という。その切り札が一番搾り糖質ゼロというわけだ。大手4社のうち酒税改正に合わせて新商品を出すのはキリンだけだという。ゲームチェンジ。さらに注目はクラフトビールだ。米ブルックリン・ブルワリーとの資本業務提携、ニュー・ベルジャン・ブルーイングを完全子会社化。米国を中心にクラフトビールが台頭しており、一大勢力になりつつあり、成長戦略につながりそう。復活曲線を描くことになるのか。キリンに注目だ。まずは本麒麟を飲んでみよう。

安倍政権は「あり」だった~論壇まとめのまとめ

 各種報道によると、ひとまず衆院解散10月25日投開票のラインはなくなったようだ。そんな中、安倍政権を振り返る論考のまとめが、朝日新聞「論壇時評」(9月24日朝刊、津田大介氏)に掲載されていたのでおさえておく。

 安倍政権はリベラル・左派に大変評判が悪かった。集団的自衛権などの右派的な政策や、「モリ・カケ・サクラ」疑惑のような公文書改ざん、情報隠蔽などのせいだろう。しかし、にもかかわらず政権は長く続いた。そこには左派からは見えない「良さ」があったはずだ。例えば、若年世代は物価の変化を考慮してもなお、賃金が上昇し、日本への留学生数は約25万人から35万人へと増えた。また、「従来の自民党政権が無視を決め込んできた課題」、例えば女性活躍に力を入れたことを評価する論者も多いという。宇野重規氏は「ナショナリズムと政府主導の(リベラルな)経済運営の独特なミックス」と分析。一見相反する両者を一身で体現し「時代適合的」であったとする。吉田徹氏も「皮肉なことに十分に民主的な政府だった」とねじれた評価を与える。つまり、民意をうまくくみとって政策に取り込み「やっている感」を演出した。その背景にはアベノミクスがった。また、政治参加の動きが弱くなった時代に合わせ、公明党という選挙に強い組織に支えられ、有利なタイミングで衆院を解散し、低投票率で争点なき選挙を勝ち続けた。それこそがまさに「時代適合的」だった。

 一方で、格差などの大きな問題は置き去りになったままだ。田中慎弥氏は「本が読まれなくなった時代の総理大臣」と喝破するが、安倍政権を批判したリベラル・左派こそが、ことの事態を重く受け止めることからやり直すしなかない、と津田氏はまとめる。

 安倍政権を引き継いだ菅政権は、早くも独自色を打ち出しつつある。同じく朝日の連載「菅印の行方」(9月22日朝刊~)である。

 菅氏が手をつけようとしているのは「デジタル庁」「携帯値下げ」「不妊治療助成」などと期待を抱かせる内容だ。中でも庶民に直結するのは「携帯」だろう。記事によれば、日本の携帯料金は5ギガバイトで6250円なのに対し、英仏は2000円弱という。菅氏からみれば「既得権益」となる。そして、ここに手をつければ消費刺激策になるし、国民感情にも符合する、というわけだ。はやくも携帯業界は戦々恐々だという。新政権の本気度に注視するとしよう。

自民党新総裁とはいかなる人物か

  14日の自民党総裁選で、菅義偉官房長官が第26代総裁に選ばれた。どのような人物か、どのような政治が展開されるか。各紙から確認していこう。

 まず、読売新聞(9月15日朝刊)である。「異例づくめの」「たたき上げの」といった言葉が並ぶ。非世襲であり、無派閥、苦学生…。プリンスともいえる安倍晋三氏などと違い、異色の経歴であるのが特徴といえそうだ。

 そもそも、自民党総裁とはどのような人物がなってきたか。日本経済新聞(9月12日朝刊)がまとめている。「総裁への道」は、時代を反映してきた。高度成長期は、「蔵相・通産省→総裁」のルートが目立つ。富の再配分に関わる大蔵省や通産省が力を持った時代であることが背景にある。つづいて昭和初期の70年代以降の派閥全盛期。田中角栄氏が条件にあげたような「幹事長・経済閣僚→総裁」のルートが増えていく。しかし、平成に入ると様相が変わる。小泉純一郎氏は厚相と郵政相のみの経験だった。また、官房長官ルートも浮上した。一連の行政改革で鑑定に権限が集中したことが背景にある。菅氏もこの流れにあるのだろうか。

 さて、その人物像である。読売、日経ともにまとめているが(15日朝刊)、1948年、雪深い秋田のイチゴ農家農家の長男に生まれ、高校卒業後に上京。アルバイトをしながら学費をためて法政大学に進み、政治家秘書に。横浜市議を経て、国政進出は47歳であった。しかし、梶山静六氏が出馬した98年の自民党総裁選で派閥を飛び出し、梶山氏を支持し善戦を展開。永田町で名が知れ渡ったという。総務相時代にふるさと納税創設を主導。安倍政権を官房長官として支え、「令和おじさん」として知られるようになったのは言うまでもない。

 政治手腕はどうか。朝日(9月15日朝刊)は、「熱気なき圧勝」と指摘するが、日経(同日)は「改革派の顔」として期待を寄せる。「行政の縦割り」の改革、中でもデジタル化をどう進めるかがまずは見どころだろう。デジタル庁の創設に意欲を示しているというが、どのような手腕を発揮するか。つづいて携帯料金下げが持論という。ここは消費者に「改革」を印象付ける舞台となる。小泉氏が郵政改革をぶち上げたように。ただ、読売が指摘するように、党三役経験がなく党内基盤が強固ではない上に、気がかりは外交・安全保障といった「骨太の国家間が明確でないこと」だ。

 いまのところ、安倍政権の「継続」として消極的に選ばれた感が強い。今後、どのように「菅カラー」を打ち出すのか、注目だ。