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安倍政権は「あり」だった~論壇まとめのまとめ

 各種報道によると、ひとまず衆院解散10月25日投開票のラインはなくなったようだ。そんな中、安倍政権を振り返る論考のまとめが、朝日新聞「論壇時評」(9月24日朝刊、津田大介氏)に掲載されていたのでおさえておく。

 安倍政権はリベラル・左派に大変評判が悪かった。集団的自衛権などの右派的な政策や、「モリ・カケ・サクラ」疑惑のような公文書改ざん、情報隠蔽などのせいだろう。しかし、にもかかわらず政権は長く続いた。そこには左派からは見えない「良さ」があったはずだ。例えば、若年世代は物価の変化を考慮してもなお、賃金が上昇し、日本への留学生数は約25万人から35万人へと増えた。また、「従来の自民党政権が無視を決め込んできた課題」、例えば女性活躍に力を入れたことを評価する論者も多いという。宇野重規氏は「ナショナリズムと政府主導の(リベラルな)経済運営の独特なミックス」と分析。一見相反する両者を一身で体現し「時代適合的」であったとする。吉田徹氏も「皮肉なことに十分に民主的な政府だった」とねじれた評価を与える。つまり、民意をうまくくみとって政策に取り込み「やっている感」を演出した。その背景にはアベノミクスがった。また、政治参加の動きが弱くなった時代に合わせ、公明党という選挙に強い組織に支えられ、有利なタイミングで衆院を解散し、低投票率で争点なき選挙を勝ち続けた。それこそがまさに「時代適合的」だった。

 一方で、格差などの大きな問題は置き去りになったままだ。田中慎弥氏は「本が読まれなくなった時代の総理大臣」と喝破するが、安倍政権を批判したリベラル・左派こそが、ことの事態を重く受け止めることからやり直すしなかない、と津田氏はまとめる。

 安倍政権を引き継いだ菅政権は、早くも独自色を打ち出しつつある。同じく朝日の連載「菅印の行方」(9月22日朝刊~)である。

 菅氏が手をつけようとしているのは「デジタル庁」「携帯値下げ」「不妊治療助成」などと期待を抱かせる内容だ。中でも庶民に直結するのは「携帯」だろう。記事によれば、日本の携帯料金は5ギガバイトで6250円なのに対し、英仏は2000円弱という。菅氏からみれば「既得権益」となる。そして、ここに手をつければ消費刺激策になるし、国民感情にも符合する、というわけだ。はやくも携帯業界は戦々恐々だという。新政権の本気度に注視するとしよう。