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分断社会とテクノロジー

アメリカの政党支持といえば、スタバで高級紙を読みながらコーヒーを飲むのが民主党、バーでアメフト観戦しながらビールを飲むのが共和党といったように、生活カルチャーと固く結びついている、と何かの新書で読んだことがある。

 しかし、現代アメリカの「分断」はそれどころではないらしい。日経(7月28日)の連載「分断の米国 デジタルの魔力」によると、トランプ支持者は新しいSNS「パーラー」に乗り換えているという。ツイッターなどでは検閲されてしまう情報を共有できるためだ。

 どんな情報が検閲の対象となるのか。すごいのが、「Qアノン」だ。トランプ氏を熱狂的に支持する「Q」を名乗る人物と、その信奉者を指す。「クリントン元大統領夫妻らが人身売買に関与した」といったデマを拡散する、まさに確信犯のような輩だ。

 人々を結ぶはずのSNSが、逆に分断へのアクセルとなってしまう。デジタル社会は大きく方向転換しているようだ。さらに新しい動きがある。腕時計端末で心拍数を測定し、感情との連動性が高い「オキシトシン」というホルモンの分泌を解析、映画やテレビ制作会社向けに視聴者の反応を測る技術を提供するというスタートアップ企業がある。それが政治勢力と結託したら…。選挙演説に応用すれば、人々の「無意識」に働きかけて支持を獲得できるかもしれない。つまり、デジタル技術で巧妙に人々を操作し、特定の政党支持へと誘導するテクノロジーだ。

 デジタル技術と選挙。テクノロジー企業における「技術の担い手の責任は重い」と連載は結ぶが、これで思い出すのが伊藤計劃氏のデビュー作「虐殺器官」であろう。

 人々が戦いあうように仕向ける虐殺文法を駆使して(無意識の)虐殺器官に働きかけ、内戦を引き起こす。そんな作品だったように記憶する。荒唐無稽とは思えない、妙なリアリティーのある、どこか背筋の寒くなるSFだった。その世界観が、いまや現実になろうとしているのだ。